4月上旬、1回目の体育の時間では、全国の中学高校で体力測定が行われる。それはこの学校でも同じであり、町田と千鶴のクラスは現在、体力測定の真っ最中であった。


(さてと、次は50m走にでも行くか)


 町田はそう決めると、50mのレーンへと歩いていく。男女混合で自分の好きなものから行っていいという自由形式。町田はすでに、ほとんどの測定を済ましたあとだった。


(うん、50mのレーンはすいてるな。前に2組いるだけか)


 二人一組での50m走。

 町田の言うとおりそこには、2つのペアが待機しているのみであった。

 その2組の中には、例にもれず女子の姿もある。今ではもう珍しい、ブルマがこの学校では使用されており、その女性の美しい脚線美に町田は釘付けになる。

 いや〜、この学校に入ってよかったと、町田は心底思っていると、


「あれ? 町田くんも次は50m走なの?」


 いつの間にか隣に立っていた千鶴が、こちらに話しかけてきた。

 どうやら、町田のペアの相手は千鶴になったようで、そのまま2人は50m走の順番を待つことになる。

 町田は返事をしようと千鶴のほうへ向き直り、そして千鶴の姿を見て、息を呑んだ。


「ゴク」


 千鶴の体操服姿。町田の目はそれから目を離すことができなくなってしまった。

 なんといってもその胸。

 おそらく1年生の時に買った体操服なのだろう。そのサイズは明らかに合っていなく、千鶴の豊満な肢体がムッチリとはりついている。

 大きな胸が体操服にピチピチにはりついており、ブラジャーが透けて見えた。

 さらにはブルマから伸びるその脚線美。

 むっちりと色気たっぷりの太もも。太いというわけでもなく、引き締まっている感じの脚が堂々とした威圧感をもって伸びてきている。

 細くもなく太くもないというその脚線美は、一瞬でも視界に入れば、そこから目をはなせないほどの魅力を放っていた。


「もう、どうしたの町田くん。急に黙っちゃって……ひょっとして体調でも悪い?」

「い、いやそんなことない……平気だよ」

「そう? ならいいんだけど……」


 尚も心配そうに町田のことをみつめてくる千鶴。町田は少し、申し訳ない気持ちになり、しかし千鶴の体から目を離すことはできずに、


「いやホント、全然大丈夫。ちょっとこの頃野球部の練習がきつくてさ、少し疲れてるだけだから」

「あ、そうなんだ。頑張ってるもんね野球部も…………ところで、町田くんって野球部の中で足、速いほう?」

「ん? いや僕は遅いね。うん、とっても……」

「え〜、嘘だ〜。なんか速そうな感じするよ町田くん。謙遜してるんじゃないの?」

「いや、ホントに……」

「ふ〜ん……まあでも私にはきっと勝てると思うよ。短距離はね、やっぱり男子のほうが有利だから……それに町田くんは野球部だしね。まあお手柔らかに頼むよ」


 えへへへ、と笑い、町田の方をポンと叩いてそう言う千鶴。

 町田はそのさいに揺れた胸とか、トロケてしまうような千鶴の匂いとかで、頭が真っ白みなるのを感じながら思考をめぐらす。


(まあでも増田さんの言うとおりだな。いくら増田さんがすごいピッチャーだとしても、そこは女の子だから……さすがに……)


「はい、次の組、用意して」


 教師の声が響き、2人はクラウチングのためにかがむ。千鶴の顔からはさきほどまでのおちゃらけた様子は消え、代わりに凛とした表情に変わっていた。


「よ〜い」


 その合図と共に、2人はスタートのために下半身を上にあげた。2人の尻が上に突き上げられる。千鶴の脚線美はより磨きがかけられ、色気と美しさが増したようだった。


「ドン!!」


 駆け出す。スタートダッシュをかけるために町田は最初から全力疾走。始めから千鶴を引き離そうとするが、


(え!?)


 引き離されていくのは、逆に町田のほうだった。

 カモシカを思わせるような千鶴の脚。

 地面を蹴るたびに、その2本の脚にグイっと筋肉が浮かび上がり、そして地面を蹴る。

 その筋肉もムキムキとした男のソレではなくて、女性のふくよかな脚に伴うような柔らかそうな筋肉だった。


(すごい……)


 町田は思わず見とれてしまう。

 150cmの前半と若干小柄な身長。しかしその脚はスラっと長く伸びており、それがとんでもない動力を生み出していた。俗に言う女の子走りではなく、その走り方は堂々そのもの。

 胸がブルンブルンと揺れているが、見苦しいということではなく、それを支える千鶴の広い肩幅と、その堂々とした出で立ちが彼女の魅力をいっそう引き立てているようだった。

 周りで千鶴のことを見ている人間も、その姿にボーと見入っていた。それほどに今の千鶴には輝く魅力があった。


(そ、そんな……)


 ジリジリと離されていく町田は、愕然としながら千鶴の後ろ姿を見つめる。

 自分と千鶴の力の差をいや応なく思い知らされる町田。町田は間違いなく全力。全力で走っているのにも関わらず、千鶴の体はどんどんと離されていく。

 悔しいという感情のまま、町田は千鶴のかなり後でゴールした。


「ふう、はあはあ、はあ」


 ゴールし、息を整えようとしている町田。膝に手をついて、はあはあと息を荒げている。と、その目の前に千鶴が歩み寄り……、


「町田くん」

「はあ、はあ、ふう」


 えへへへ、と笑い、息さえ切らしていない千鶴と、膝に手をついてしゃがみこんでいる町田。自然と町田は千鶴のことを下から見上げる形になる。


「えへへへ、私の勝ちだね。町田くん」


 えっへん、と胸をはりながら、しゃがんでいる町田を見下ろしながらそう言う。

 そんな千鶴の姿に町田は、なにか決して勝つことができないのではないかという、圧倒された感を抱いていた。

 下から見上げる町田と、千鶴の見下ろす視線がぶつかる。

 ニコニコと笑いながら、胸をはって町田を見下ろす千鶴。町田はそんな視線を受けて、ひどい羞恥心にかられた。

 顔が赤くなり、目をそむける。

 自分の好きな女の子に、走りで負けた。かりにも野球部という運動部に所属している自分が女の子に負けてしまった。

 千鶴の美しい肢体。その全体が、町田に言いようのないブレッシャーを与え続けていく……。


(続く)