「じゃあいくよ。よ〜い、どん」


 かけ声とともに、町田は全力で左腕に力をいれた。

 体全体を使うように、上半身を倒れこませて自分の体重さえも力に変える。全力の全力。男が故の手加減なんて微塵もなく、町田は全力で千鶴を負かしにかかっていた。

 しかし、                                                                                         

(ビ、ビクともしない)


 町田の全力の力。しかし腕の位置は最初から動いてはいなかった。

 町田の力は、壁のような、圧力をもった何かに完全に無効化されていた。町田は前をチラッと見てみる。自分の全力の力をせきとめている存在の顔を仰ぎ見るために。


「え? 町田くん……いいの?」


 キョトンとした感じの千鶴。信じられないというよりは、何が起こっているのか分からないといった表情だった。その表情をもって、町田のことを見続ける。

 その間も町田は全力で千鶴の腕を机につけようと力をいれているのだが、千鶴は尚もキョトンとした感じ呆けているのみである。

 まったくの余裕。というか、本当にまったく力をいれてないような様子である。

 町田の全力の力が、千鶴のまったく力の入っていない感じの腕に、まったく歯が立っていなかった。


「うわ、コレはひどいな……ねえ町田くん、本当に本気だしてる? 私、まだ全然力いれてないんだよ?」

「く……」


 さらに体を横に倒して、力をいれる町田。千鶴の、自分のことをひどく哀れんでいるような表情が町田の心を苦しめていた。

 限界をこえる全力。町田の顔は赤く染まり、歯を食いしばって顔が苦痛に歪んでいる。腕はプルプルと震えて千鶴の腕をなんとか倒そうとしている。しかし、


「町田くん……」


 哀れみの表情。プルプルと震える町田の腕とは対照的に、千鶴の腕はただそこにあるだけだった。顔を赤くして必死の形相の町田と、余裕でビクともしていない千鶴。

 ここにもう勝負はついたようだった。千鶴は本当に力を入れてはいなかった。ただ町田の手を握っているだけ。それなのにも関わらず、町田は自分の腕を少しも動かすことができない。

 千鶴は町田のことを本当に同情し始めていた。

 そしてそれと同時に、それまでの町田の評価が少しではあるが変わっていくのを千鶴は内心で感じることになる。

 女の自分にまったく歯の立たない男。必死の形相で自分の腕を倒そうとしているのにまったく力がこもっていないように感じてしまうような貧弱な体。

 千鶴は一瞬だけ町田のことを蔑みの表情で見つめる。しかしそれも一瞬で、次の瞬間にはいつものようなおどけた感じの、ニコニコとした笑い顔になる。

 千鶴は、楽しくて仕方ない、といったように町田のことを見つめ、ふざけた感じで、


「ふふふ。あれ〜、そうしたのかな町田くん。全然力を入れてないようだけど……えへへへ、じゃあ私、ほんの少しだけ力いれちゃうよ?」


 ニコニコと笑いながらの宣言。千鶴は無邪気に笑顔を浮かべながら、腕に力をこめる。


「えへへへ、えい」


 ズドン!!


「ぐはああああ」


 千鶴の「えい」という可愛らしいかけ声とともに、町田の左腕は冗談のような勢いで机に叩きつけられた。

 あまりの激痛に悶える町田。顔を苦痛に歪めて悲鳴をあげるしかできない。

 千鶴は町田の左腕を机に押さえつけたまま、悲鳴をあげ続けてる町田の目を覗き込む。


「もう、ほら〜。ちゃんと全力でやらないからだよ町田くん。ふふふ、でも私はホントに少ししか力いれてないんだけどね。ほんの少し力入れただけでズドンだって……あははは、おかしいね町田くん」

「あああああ、ああああ」


 町田は今だに左腕を机に押さえつけられながら、目に涙をためて悶える。とんでもない激痛で何も考えることができない様子だった。

 そんな町田のことをニコニコと笑いながら見つめる千鶴。

 空いている右腕で机にヒジをつき、それで頬杖えなどしている。そして右手で頭を支えながら、下から覗き込むようにして町田のことを見つめ続けていた。


「えへへへ、じゃあもう一回やろうね町田くん。今度はちゃんと力いれなきゃダメだよ〜」

「や、やめて増田さん。もう……」


 自分のことを頬杖をついてみつめてくる千鶴のことを、情けない様子で見返す町田。そのままの状態で、犬のように……捨てられた犬のように千鶴のことを見つめ続けることしかできない。

 しかし千鶴は「ダメだよ」と笑顔のまま。


「はい、いくよ。よ〜い、どん」


 合図と共に徐々に力をいれていく千鶴。今度はゆっくりと、ゆっくりと町田の腕が下がっていく。

 町田は左腕に圧倒的な力を感じながら、しかし全力で抵抗を試みていた。

 顔を真っ赤にして、歯を食いしばっている必死の形相。それを千鶴は頬杖をつきながら楽しそうにみつめている。


「お、やるじゃん町田くん。今度はいっきに勝負がつくってことはないね。ほら、もっと頑張って」


 町田の健闘は町田の力ではなく、千鶴がほんのちょっとしか力をいれてないからである。

 それを分かった上で、千鶴はニコニコと笑いながら町田のことをからかっていた。


「く……」

「ほら、町田くん、頑張って。あと10cmで町田くんの負けだよ? ふふふ、腕力で男の子が女の子に負けていいのかな?」

「くはああああああ」


 そんな言葉に奮起したのか、町田は体を仰け反らせるように倒れこませた。

 千鶴はそんな町田の様子に「くす」と笑みをこぼす。町田の最後の頑張りも、千鶴には問題にならないような微弱な力だったからだ。

 ニコニコと笑いながら、頬杖をつうきながら町田のことをみつめる千鶴。そして血管が切れるくらいに頑張っている町田のことを見て、さらに手加減をすることにした。

 余裕の表情はそのままで、腕の力だけを緩める。

 その結果、あと10cmで町田の腕が机につくというところで、腕の動きが止まった。


「ふふふ。やるじゃん町田くん。ほら、もっと頑張って」

「くはああああああ」


 千鶴の言葉に、町田は奮起する。

 千鶴が手加減をしていることなど露とも知らず、千鶴の言葉にわずかの期待を抱く。

 さきほどから町田の腕はプルプルと震え、それ以上の力などだせないことが目に見えていた。

 しかしそんな全力の力をもってしても、千鶴の腕はビクとも動かない。千鶴はひとしきり必死に頑張っている町田のことを見つめると。


「クス、はい。時間切れ〜」


 言葉とともに、町田の左手を机に叩きつける。ズドンというすごい音が、町田の手と机が衝突することによって起こった。


「ああああああああああ!!」

「えへへへ、はい、私の勝ちだよ町田くん」


 町田の左腕を机に押さえつけながら、無邪気にそう言う千鶴。

 町田の顔はもはや苦渋に歪んでいるだけであり、目からはポタポタと涙がこぼれている。叫び声をあげ続けたせいか、口の周りには涎がこびりつき、なんとも汚らしい表情になっていた。

 そして町田は、そんな情けない表情をもって、自分の目の前に座る女の子のことを見つめている。

 可愛らしい、自分の好きな女の子。

 そんな可愛らしい顔の女の子が今も尚自分のことを、ニコニコと笑いながらいたぶってくる。そこには余裕の表情しかなく、頬杖までついて自分のことをみつめてくる千鶴がいるだけだった。


「町田くん。女の子に負けちゃって恥ずかしくないの? だって私、全然力いれてないんだよ? それなのに町田くんは顔を真っ赤にしながら頑張ったのに、私の腕をまったく動かせない……えへへへ、弱いんだね、町田くんは」

「許して……もうやめて増田さん」

「何いってるの? ダメだよ町田くん。やめてほしいなら、ちょっとは私の腕を動かせなくちゃね。町田くん、両腕を使ってもいいから、私の腕を1ミリでも動かしてみようよ。そしたら許してあげても良いよ」

「両腕で?」

「うんそうだよ。ほら、早くしないと……」


 グググ。


「ああああああ!!」


 千鶴が腕に力をこめると、ミシミシという音が町田の左腕から聞こえてくる。

 町田の手は、千鶴の手と机にサンドイッチにされてジワジワと潰れていく。


「あははは、ほら町田くん。町田くんの手からミシミシって音が聞こえるよ? このままじゃ使いものにならなくなっちゃうんじゃない? ほら、早く両手で頑張って……早くしないと本当に潰しちゃうから」


 えへへへ、と笑う千鶴。

 その言葉に町田は「ひい」と悲鳴をこぼす。そしてすぐに千鶴の手を両手で握り、持ち上げにかかる。


「くはああああああ!!」


 両手を使い、全力で千鶴の腕を押しのけようとする町田。

 千鶴は言わずもがな片手のままである。

 左手一本で町田の両腕と対峙する千鶴。単純計算で1対2の圧倒的に不利な状況。

 本来なら勝負にすらならないと思うが、


「えへへへ、よわ」


 ドスン。


「がああああああああッッ!!」


 千鶴がほんの少しだけ力をいれただけで、町田の両手は机に叩きつけられた。

 町田の恐怖にひきつっている表情を楽しそうに眺めながら、まるでなんでもないことのように、軽く町田の両腕に圧勝してしまった千鶴。

 千鶴は町田の両腕を机に押さえつけながら、そのままの上体で町田のことを離そうとしない。

 それどころか、押さえつけている手に、さらに力を込め始める。

 千鶴は片手で頬杖をつきながら、楽しそうに町田の表情をみつめながら、町田のことをさらに潰しにかかる。

 町田の悲鳴が教室に響き渡る。

 またしても千鶴の手と机にサンドイッチにされてしまう町田。

 千鶴の女性らしい柔らかな筋肉がうっすらと浮かび上がり、町田の男らしい太い腕を凌駕する。

 グググ、と千鶴の腕に力がはいるたびに町田の手に形容できないような激痛が生まれていく。


「ねえねえ町田くん。今、本当に本気でやってるんだよね? 両手を使ってるのに女の私にも勝てないなんてさ。弱すぎだぞ」

「許して、もうやめて……やめてください増田さん。お願いだから……潰れちゃう、潰れちゃうよ」

「えへへへ、潰してるんだから当たり前でしょ。自力で頑張らないと、ほら」


 無邪気な感じでさらに力をこめる千鶴。

 町田の苦痛に歪む瞳を、千鶴はニコニコと見つめ続けている。

 グググ、と千鶴の腕が力をこめるたびに、町田の手はどんどんと潰れていく。

 もうこれ以上はないほどに町田の手は限界を迎えているのか、千鶴の腕は町田の手ごとに机を破壊しそうな勢いでプルプルとふるえはじめる。

 町田はもう自分の力ではどうにもならないと感じたのだろう。

 もうこの苦痛から逃れるには千鶴に許してもらうしかない。そう思った町田は、苦痛に顔を歪めながら、千鶴に対して許しを乞うことしかできないようだった。


「許してください。もう、もう本当にやめて。やめてください……お願いします。お願いします」

「えへへへ、なに? 町田くん敬語なんか使っちゃって。私、最初に言ったよね? 私に敬語は必要ないって……これはお仕置きが必要だね」


 えい、という可愛らしいかけ声とともに、さらに腕に力をこめる。

 町田の手から、ボキっという音が聞こえてくる。


「あっぎゃっぎギャアああああッッ!!」

「あははは、すごいすごい。町田くんの悲鳴、きっと学校中に響いてるよ。どうする? 誰かに気付かれでもしたら。女の私に腕相撲でメチャクチにされてるって、誰かに知られたらどうする? えへへへ、学校中の笑いものだね」

「ああああああああああああ!! やめてーーーー!! やめてーーーーー!!」

「ふふふ、やめてあげないよ。ほら頑張って町田くん。頑張らないとこのままず〜と町田くんのこと鳴かせ続けちゃうよ。声がかれてでなくなるまで町田くんのこと鳴かせ続けちゃうんだから……でも、その前に町田くんの手が潰れちゃうのが先かな? ほらっ!」

「許して!! もう本当に許してーーー!!」


 もはや町田の顔は涙と鼻水でグショグショだった。

 目を見開き、口を大きく開けて苦しみに悶える。

 手の痛みは限界に近く、激痛で意識が飛んでしまいそうだった。

 そんな限界をむかえつつある町田は、もはや悲鳴と許しを乞う叫び声しかあげることができないような様子。

 そしてその情けない表情を浮かべている町田のことを、千鶴はいつまでも楽しそうに見つめ続けるのだった。


「ふふふ、町田くんって本当に弱いよね」

「やめてーーー」

「今も叫び声しかあげられないしさ。女の私に手も足もでないんだから……弱すぎだよ、町田くん」

「増田さん、増田さん!!」

「ふふふ、もうあれだね。町田くんより私のほうがめちゃくちゃ強いんだね。もう相手にならないくらい…………よし、じゃあもう許してあげようかな」

「あ……」


 町田は安堵の表情で千鶴に嬉しそうな顔を向ける。

 まるで捨てられた犬が、ご主人様を見つけたときのような、そんな表情。

 しかし、もう許してやるといった千鶴は今だに町田の手を離そうとはせず、ただただ自分に許しを乞う男の顔を見つめ続けるだけだった。


「じゃあ、町田くんには認めてもらおうかな。自分が私よりもずっと弱いってことを……じゃあねえ……うん。じゃあ「僕は増田さんよりとっても弱い男です。女の子の増田さんに力で手も足もでない弱い男です」って言ってもらおうかな」


 さあさあ、と目を輝かせながら言う千鶴。

 そんな言葉に町田のなけなしのプライドが一瞬だけするが、それもあくまで一瞬のこと。

 すでに町田の心は完全に千鶴に屈服しており、千鶴の命令であればどんな屈辱的なことでも喜んでやるだろうという所まできていた。

 もとより町田に反抗の意思はなく、逆にそんなことで許してもらえるのか、と喜びに目を潤ませて、千鶴の言葉を口にする。


「ぼ、僕は増田さんよりもとっても弱い男です……女の子の増田さんに力で手も足もでない、弱い男です」

「よしよし、じゃあ許してやろう」


 そんなふうに無邪気に言いながら、千鶴は町田の手を離す。

 やっと激痛から開放された町田は「ひいひい」と苦しみながら、痛めつけられていた手をさすっている。

 そんな町田のことをニコニコと笑いながら、千鶴はみつめていた。


「えへへへ、私のほうが力強いんだからね。私がその気になれば、町田くんのことなんてボコボコにできるんだよ」

「ひ、ひい」


 放課後の教室。

 辺りはシンと静まり返り、周りに人がいないことを教えてくれる。

 周りに人はいない。ならば誰にも気付かれることなく……、


「誰も学校にはいないんだからね。町田くんのこと助けてくれる人はいないよ。えへへへ、なんの抵抗もできないで、私にボロボロにされちゃうんだろうね。殴って、蹴って、締め付けて……えへへへ、楽しみだな」

「ひい!!」


 千鶴は妖艶な表情を浮かべながら、町田のほうへと近づいていく。

 千鶴が歩くたびに、その大きな胸がたぷんたぷんと揺れているが、しかし今の町田にそれを楽しむ余裕はない。

 目の前にせまる千鶴を、恐怖におののく目で凝視するしかできない。

 町田の顔には絶望と恐怖で染まり、いやいやをするように首を横にふり始める。

 そんな町田のことを、嬉しそうにみつめながら、千鶴は町田に近づいていく。

 今自分の前にいるのは自分よりも格段に劣っている存在。

 そんな犬のような存在が、自分を怖がり、恐怖に顔を歪めている。

 千鶴はなんだか楽しくなり、えへへへ、と笑う。

 そして町田の目の前までせまり、ピタっと止まる。

 その立ち姿は堂々としたものであり、町田のビクビクとした様子とは比べようもなかった。

 千鶴に対するあまりの恐怖心ゆえにまったく動くことのできない町田。

 そんな町田のことを、千鶴は仁王立ちのままに見下ろす。


「町田くん……」

「ひ、ひい!! ゆ、許して。なんでもしますから。なんでも……だからお願いだから……!!」


 自分はただ声をかけただけなのに、今にも土下座しそうな勢いで、事実、おそらく命令すればなんの躊躇もなく土下座するであろう男の姿を見て、千鶴は嬉しそうに笑う。

 千鶴と同様、町田も立ってはいるのだが、今では千鶴のほうが町田のことを見下ろしている感じがある。

 身長差を考えればありえないことなのだが、しかしげんに千鶴は町田のことを見下ろし、町田は千鶴のことを仰ぎ見ている。


 ご主人様と奴隷。

 飼い主とその犬。


 そんな主従関係が一目で理解できる今の2人の状況。

 そんなことに満足したのか、はたまたただ単に飽きただけなのか、千鶴はまたもはニコニコと笑い始め、


「えへへへ、じゃあ町田くんのことボコボコにしてあげるね」

(続く)

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