野球部が女子ソフト部に惨敗した。

 そのニュースは、試合の翌日には全校生徒に広まっていた。

 野球の勝負で、女子ソフト部が野球部に圧勝したらしい。

 噂は次々に広まった。

 まるで相手になっていなかった、と誰かが言った。大人と子供。というか、野球部の奴らって大したことないんじゃないか? ほら、夏の大会だって一回戦負けだし。

 面と向かって言葉にする生徒はいなかったが、ほぼ全員の生徒たちがそう思っていたことは間違いない。

 それは、生徒たちの野球部員を見つめる視線を見れば一目瞭然だった。

 まるで、負け犬を見るような、嘲笑したような視線。

 ひそひそと、野球部員を横目で見ながらされるささやき声。

 野球部員たちは、そんな屈辱に必死に耐えるしかなかった。

 噂はすべて本当なのだ。

 自分たちは、女子ソフト部に・・・・野球なんてやったこともない女の子たちに手も足もでずに負けた。

 34 対 0。

 てんで相手にならなかった。女子相手に、一本のヒットも打てなかった。惨敗だった。

 どんなに努力しても自分たちは彼女たちに勝てない、そう思わせるには十分なほど、両者の実力の差は圧倒的だった。


「ねえねえ、本当に千鶴ちゃん、野球部に勝っちゃったの?」


 町田の前の席で、クラスメイトの女子と千鶴が話しをしている。

 千鶴の席には人だかりができていた。その中心にはもちろん千鶴がいる。彼女は、質問に無邪気に答えた。


「そうだよ♪ 34対0でね。女子ソフト部の圧勝〜」


 楽しそうな声だった。

 きゃああっ、すごいすごいと、席を囲む女子たちが騒ぎたてる。


「でも、千鶴ちゃん本当にすごいねー。男の子に、野球で勝っちゃうんだもん」


 女子生徒の賞賛に、千鶴がなんでもないように答えた。


「別に大したことないよ。野球部の人たち、すっごい下手くそだったしね」

「えー、そうなの?」

「そうそう。だって、34対0だよ? わたしたち、今まで野球なんてやったことなかったのにさ。その野球で勝負して、手も足もでなかったんだもん、あの人たち」

「あ、わたし試合見てたよー。野球部の人たち、千鶴ちゃんの投げる球にかすりもしなかったんだよねー」

「そうそう。最後には腰まで引けて怖がっちゃってさ。あれは傑作だったよねー」


 きゃははは、と黄色い笑い声が響いた。

 その中には千鶴の笑い声もある。純粋無垢な女王様は、仕上げとばかりに後ろに振り向いた。


「ねー、町田くん。きみも、けっきょくわたしの球にかすりもしなかったよねー」


 千鶴の視線を追うようにして、女子生徒たちもまた町田に注目した。

 さきほどまで、千鶴の後ろの席で息を殺していた町田。

 彼は顔を真っ赤にして、携帯電話を見ている振りをしていたのだった。


(逃げ出したい)


 町田は絶望にかられながら思った。

 クラスの女子から・・・・・日頃、なにかと喋る機会のある女の子たちから嘲笑される。

 至近距離から遠慮なく向けられる彼女たちの視線には、自分のことをバカにしたような嘲笑があった。

 中には、軽蔑したように冷ややかな視線をおくってくる女子もいる。

 おそらく、昨日の試合を見た女子たちが。彼女たちはすべてを見ていたのだ。野球部が女子に負け、そして、土下座をしたことを。

 女子ソフト部の靴を永遠と磨かされてことを。

 そして、土下座をした後頭部を千鶴にぐりぐりと踏まれたことを・・・・・・

 こちらを冷ややかに凝視してくる彼女たちは、その一部始終を見ていたのだ。


(完全に下に思われてる。昨日まではあんなに気さくに話しかけてくれた女の子まで、まるで養豚場の豚でも見るような冷ややかな目つきで僕のことを・・・・・・)


 町田は彼女たちの視線に耐えきることができずに、下を向いてしまった。

 千鶴がそれを見て、席から立ち上がった。

 ガタっという音に、町田はビクっとふるえた。


「あれー、どうしたの町田くん。下なんて向いちゃって」


 心底嬉しそうな千鶴の声だった。

 まるで、町田をいたぶる口実ができたと、喜んでいる感じさえある。


「さっきまで、わたしたちの話しに聞き耳たててたよね?」

「・・・・・・・・・・・・」


 町田はかたくなに下を向いたままだ。

 顔をあげれば、千鶴を見上げなければならない。それがとてつもなく、怖かった。


「ねえ、なんとかいいなよ」


 少しだけ低い声で言った千鶴は容赦をしなかった。

 彼女は、片手で町田の顎をつかむと、そのまま彼の顔をグイっと上をむかせた。


「キャー、千鶴ちゃんってば大胆!」


 周囲の女子生徒が騒ぎ立てる。

 なにごとかと、今まで輪に加わらなかった女子たちも、町田の席を取り囲んでいた。


「ふふ、町田くん。これで下むけないね」


 千鶴は町田の顎をつかみ、強制的に彼の顔をあげ続けながら言った。

 彼女は真正面から町田のことを見下ろしている。

 席に座ったままの町田と、それを仁王立ちのまま見下ろす千鶴。

 奴隷とそのご主人様。

 その二人の対比は、周囲の女子生徒にとって明らかだった。


「や、やめて」


 町田が弱々しく言った。

 それを聞いて、千鶴が妖しく笑った。純粋無垢な娼婦のような笑みだった。


「なに? 町田くんは何をやめてほしいの?」

「こ、こういうことだよ」

「こういうことって、どういうことかなあ?」


 くすくす笑いながら、千鶴は町田を見下ろすことをやめない。

 怯えた眼で、おどおどとこちらを見上げてくる町田の姿に、千鶴はゾクゾクしたものを感じていた。

 いじめたい。

 きっと、いい声で鳴いてくれる。

 千鶴はそう無意識に考えて、何通りもの調教方法を考えていた。

 顔が変形するまでビンタしたい。怯えた顔を真正面から見ながら、彼の顔が真っ赤になるまでヤってしまいたい。

 ぎゅううって首をしめてやりたい。白目になって、舌が飛び出て、ぶくぶく泡をふく様子をじっくり観察したい。

 胸に顔面を埋めて、潰してやりたい。胸に伝わる振動を堪能するのだ。彼の涙と涎で胸がぐっしょりになるまで、絶対に解放なんてしてあげない。

 千鶴は自分の欲求に気づかないまま、残酷な調教方法を無意識に考え続けていく。

 その興奮は表情に出て、にんまりとした笑顔になった。

 あまりの恐怖に、町田は「ひい」と悲鳴をもらしてしまった。


「あははッ、町田ったら、すっごく怯えてるじゃん!」


 周囲の女子たちが嘲笑をあびせる。


「びくびく震えちゃってさ。ビビりだよねー」

「よっぽど、昨日のが怖かったんだね」

「え、なになに? どういうこと?」


 昨日の試合を見ていない女子生徒が、事情を知っている生徒に尋ねた。


「ふふっ、昨日の試合の後なんだけどね」


 町田は、絶望に目の前が真っ黒になるのを感じながらその言葉を聞いた。


「千鶴ちゃんったら、町田くんの顔をおもいっきりビンタしたんだよ」

「ええー!?」

「嘘でしょ!?」

「ほんとほんと。でね、最高なのが、ぷぷぷっ」


 昨日の全貌がクラスメイトに知られる。

 土下座をしたこと。

 頭を踏まれたこと。

 永遠と女子部員の靴を磨かされたこと。

 そのすべてが、クラスメイトの女子たちに知られてしまった。

 爆笑がおこった。

 女子生徒たちは、腹をかかえて町田のことを笑っている。


「ねえねえ、ちずちゃん」


 髪をそめた女子生徒が千鶴に言った。


「ここでさ、もう一度やってくれない?」

「え、なにを?」

「だからさ、ビンタだよビンタ。ふふっ、昨日見逃しちゃったからさー。ここでもう一回、ねえ、いいでしょ?」


 きゃあああッ! 黄色い歓声があがる。

 やっちゃえやっちゃえと、周囲から声があがり始める。

 冗談だろ、と町田は思った。

 ここは学校で、しかも周囲にはクラスメイトがたくさんいるのだ。

 今までの調教はすべて千鶴と二人っきりになった時に限られていた。

 こんな大勢の前で、ビンタされるなんてありえない。

 そんな町田の希望的観測は、千鶴のヤル気に満ちた顔を見て消滅した。

 顔を赤らめて、千鶴が、町田のことを見下ろしている。

 家畜を見る目つきだった。

 獲物を観察する目つきだった。

 彼女が口を開いた。


「ふふっ、それもいいかも」


 恐怖に全身が総毛だった。

 千鶴は本気だ。

 本気で、こんな衆人看守の中、男をビンタしようとしている。

 千鶴が右手をあげた。

 振りかぶる。

 顔には満面の笑顔。

 抜群の威力をほこる千鶴のビンタが、勢いよく振りおろされようとして、


「ひいいいいい!!」


 それよりも早く、町田が逃げるようにして席から転がり落ちた。

 無様に地面に転がる。

 ひいひい、と悲鳴をあげながら、彼は顔を両手で隠し、千鶴からのビンタを防ごうとしていた。

 爆笑があがった。


「町田ったら、ビビリすぎでしょー」

「キャハハ、見てよアレ。なさけなーい」

「女の子にビンタされそうになって、逃げちゃった。だって、まだ千鶴ちゃん、右手を降りあげただけじゃん」

「ヘタレー」


 町田はガクガク震えながら嘲笑を受けた。

 彼はようやくビンタの恐怖がないことを悟ると、ゆっくりと視線をあげた。

 そこには、こちらを見下ろしてくる千鶴の姿があった。

 ニコニコと笑いながら、楽しそうにこちらを見下ろしてくる千鶴。その顔には、からかうような表情があった。


「ふふっ、こんなところでする訳ないじゃん、町田くん」


 千鶴が町田に近づく。

 彼女は、地面に倒れた町田のことをまたぐようにして立った。

 至近距離、もう少しでスカートの中が見えてしまうほどの角度から、千鶴が町田のことを見下ろしている。

 両手は腰にあて、仁王立ち。

 艶めかしい白い太ももが大迫力で町田に迫り、彼は本能に耐えられない。

 後でどんな恐ろしいことがされるか分かっていながら、町田は千鶴の太股を見つめてしまう。

 計算どおりすぎる反応を見せて、千鶴が妖しく笑った。

 彼女は、町田にだけ聞こえる小さな声で言った。


「あとで、たあっぷり、虐めてあげるからね。顔が真っ赤になるまで、ビンタしてあげる♪」


 言葉だけで怯え、震え上がる町田。

 そんな彼を見た千鶴は、ゾクゾクと背筋が震え、子宮の奥がキュンとなるのを感じた。


「楽しみだね、町田くん」


 野球勝負で負けた野球部は、女子ソフト部に頭があがらない。

 クラスの中でさえ屈辱を受けた町田は、どうにかなってしまいそうに顔を真っ赤にしてうなだれていた。

 男子が女子に負ける。

 その刺激的な結果は、全校生徒にまで広がり、さらに彼らをおいつめる。

 このように、学校の中で屈辱を感じているのは町田だけではなかった。

 ほかの野球部員もまた、同じ末路をたどっていたのである。

 その一例・・・・・・

 1年生の女子ソフト部員達の残酷さは、ひときわ目立っていた。

 それは、2年生の廊下で起きた出来事である・・・・・・・

つづく