廊下。

 二人の女子生徒が、三人の男子生徒を壁際に追いつめていた。

 昼休みに入ったばかりで、あたりには喧噪がたちこめている。

 そんな中で、この前入学してきたばかりの新入生が、先輩であるところの男子生徒を壁際に追いつめているのだ。

 女子二人は背が高かった。

 ゆうに180センチは越えており、その肩幅は広い。

 スカートから伸びる脚はむっちりとしていながらも筋肉の筋を誇示するかのようで、たくましかった。

 鍛え上げられた美しい肢体。

 野球部員であるところの男子生徒たちもまた、体を鍛えている。しかし、両者の体格は大人と子供のそれだった。

 明らかに、新入生たちの体格のほうが優れている。

 だからこそ、野球部員3人は、なすすべもなく廊下の壁際においつめられているのだった。


「ほんっと、あんたらって下手くそよねー」


 女子二人のうち、派手な顔だちをしたほうが口を開いた。

 高校生には見えないような大人びた女性だった。顔は茶髪で、長いそれは巻き毛になっている。

 まるで外国のセレブのような出で立ち。

 制服もすでに改造してあるようで、その大きな胸を強調するかのように、胸元が大きくあいていた。

 スカートは極限まで短く、長い脚が伸びている。

 大きくはりだしたヒップもまた自己主張していた。

 至近距離に迫られた男子生徒は、目のやり場に困っているようだった。おどおどと女の体を盗み見ている。その様子はいかにも童貞臭く、少女を満足させた。


「千鶴先輩の球にかすりもしないでさー。わたしキャッチャーだから間近で見てたけど、あんたら才能ないよ。これなら、小学生の女子ソフト部にだって負けちゃうんじゃない?」


 派手な顔立ちの少女___彩華が男たちを見下ろしながら言った。

 彼女は天性のサディスシャンだったので、男たちの退路を絶ったうえで、壮絶な罵倒を繰り返していたのだった。

 男たちは屈辱に震え、下を向くばかりだった。


「ちょっと、彩華ちゃん」


 そこで、もう一人の女子生徒が口を開いた。

 彼女は、昨日、町田に慈悲を見せた数少ない女性、心優しい優子だった。


「やめてあげなよ。かわいそうだよ」

「なによ。優子だって、昨日、「野球部の人たち、あまりうまくなかったね」って言ってたじゃない」

「そ、それはそうだけど・・・・・」


 優子は困ったように言葉を濁した。


「き、きっと、先輩たちは本気じゃなかったんだよ」


 苦しそうに優子は言った。

 その顔には、同情が浮かんでいた。

 かわいそうなものを見るような視線が、壁際に追いこんだ上級生の男子にむけられている。

 男たちは、彩華の罵倒よりも強く、優子の同情にこそ屈辱を感じた。

 巨大な少女二人の壁を前に、野球部員たちは顔を真っ赤にしてぷるぷる震えている。

 その拳は強く握られていた。


「そうだよ。先輩たちは、手加減してくれたんだよ。それで、思ったよりわたしたちが野球うまくて、焦っちゃったんだと思うな」


 男が一人、我慢できずに顔をあげ、優子をにらみつけた。

 彼女は、男たちをなぐさめることに夢中で、そのことに気づけない。


「だって、そうじゃなかったら素人に、34点もとられるわけないよ」

「・・・・・・・・・」

「そうだよ。1点とるどころか、ヒットも打てないなんて普通ありえな、」

「うわあああッ!!」


 野球部員は我慢ができなかった。

 顔を真っ赤にした男が一人、優子の腹に右拳をたたき込んだ。

 バスウン!!

 すごい音。

 しかし、倒れ込んだのは男のほうだった。


「く、いってえええ!!」


 男は右拳をおさえてかがみこんだ。

 その拳は真っ赤になって、傷ついている。


「え? ど、どうしたんですか、先輩」


 優子は平然としたものだった。

 殴られたことに気づいていない。いきなり苦しみだした上級生を気遣う優しさしかそこにはなかった。

 男たちは、驚愕して優子を凝視した。

 腹にパンチが炸裂したのに。

 なんでこの女は、顔色一つ変えないのか。


「あははは!!」


 爆笑があがった。

 彩華だった。


「あんたらとは鍛え方が違うのよ。腹筋だってそこらへんの男なんか目じゃないほど鍛えてあるわけ。貧弱なアンタらの力で、わたしたちには傷一つつけられないわよ」


 絶句。

 それをあざ笑うように、彩華が優子に耳打ちした。

 優子は最初躊躇しているようだった。

 しかし、彩華が何かの言葉を口にし、取引をもちかけると、優子はしぶしぶうなずいた。

 そして、


「動かないでくださいね、先輩」


 ブウウンンッ!!


 空気の振動しか男たちは感じられなかった。

 いつの間にか、優子の右拳が男の顔面の直前に止まっていた。

 寸止めである。

 その動きはまったく見えなかった。

 恐ろしい破壊力を秘めたパンチ。直撃していれば、顔面は陥没して、血だらけになっていただろう。

 男はへなへなと地面に倒れ込んだ。

 腰が抜けてしまったのだ。

 新入生の女子の、寸止めのパンチで、男たちの反抗心はあっけなく刈り取られてしまった。


「ぷぷっ、バッカみたい」


 彩華が吐き捨てた。

 自分のことを怯えた視線で見つめてくる男たちを、嗜虐的な表情で見下ろしている。

 男たちは恐怖心でいっぱいで、長身の女性たちを前に震えるしかなかった。

 彩華は、その大きな胸の前で腕を組むと、言った。


「ふふっ、あんたたち、パンとジュース買ってきなさいよ」


 彩華が堂々と命令した。


「部室で食べようと思ってたからさ。女子ソフト部の部室まで運んできなさいよね」

「な、なにを」


 ドッスウウウウン!!


 すさまじい破壊音。

 彩華が、男たちのすぐ脇にむかって直蹴りをかましたのだ。

 男たちの背後の壁に彩華の大きな上履きが直撃している。

 まるで校舎が揺れているような衝撃。

 逞しい太ももがスカートから伸びていた。

 その鍛え上げられた脚で蹴られたらどうなるのか・・・・・・男たちは恐怖で震え上がった。


「10分以内。ダッシュ」


 彩華が美脚を男たちに押しつけて言った。


「いいわね?」

「は、はい!!」


 下級生の女子の命令にあっけなく従う。

 野球部員たちは、金を受け取ることもせずに、急いで購買にむかって行った。

 その様子を彩華は満足そうに見つめ、優子は申し訳なさそうに見送っていた。


「それじゃあ、わたしたちは部室に行きましょうか」

「彩華ちゃん。あとでちゃんとお金は払わなきゃダメだよ」

「はいはい。後でね」

「もう」


 二人は女子ソフト部の部室へと歩いていく。

 しかし、そこでは凄惨な調教が、

 いや、拷問がされているのだった。


 ●●●


「やだやだやだ、やみゃひゃッグウウエエエ!!」


 彩華と優子が階段をあがり、女子ソフト部の前に着いた時だった。

 部室の中から、男の悲鳴があがった。

 その声には聞き覚えがあった。二人はそっとのぞき込むようにして部室のドアをあけた。

 千鶴が町田を調教していた。


「ほらほら〜、どんどん食い込んでいくよ〜。町田くんの大好きなわたしの脚。えへへ、うれしいでしょ?」


 千鶴は椅子に座って、脚を大きく前に伸ばしていた。

 その太ももの間には、町田の頭部が捕らえられている。

 すらっと美しく伸びた脚線美に、哀れな獲物がとらわれている図。

 町田は、顔を鬱血させ、無駄な抵抗と分かっていてもジタバタあがいている。

 必死の形相。口からは涎。

 それは、女郎蜘蛛のクモの巣に捕らえられ、今にも捕食されてしまいそうになって暴れる虫けらのように見えた。


「千鶴先輩」


 彩華が声をかけた。

 調教に興奮していた千鶴は、そこで初めて後輩に気づいたようで、


「あ、彩華ちゃんに優子ちゃん。こんなところでどうしたの?」

「昼休み、ここで昼食を食べようと思いまして。先輩はご飯とか食べたんですか」

「うん。こうやって町田くんを脚で挟みながら食べたよ。ふふっ、昼休み中ずっとこうやって調教してたから、町田くんはご飯食べれてないんだけど」

「えー、じゃあ、千鶴先輩がこいつの食べちゃえばいいじゃないですか」


 彩華の言葉に、千鶴は一瞬だけキョトンとした。

 彼女は、すぐににんまりと笑うと言った。


「そうだね。それもいいかもね。優子ちゃん、ちょっと町田くんのバックとってもらえる?」

「あ、はい」


 優子から町田のバックをうけとった千鶴は、その中の弁当をとりだして言った。


「じゃあ町田くん。調教されてご飯を食べれない君のかわりに、わたしが町田くんの弁当を食べてあげるからね。感謝するように」


 おどけたように言って、彼女は弁当を食べ始めた。


「ぶっぎゃ・・・ひぎいい、ひゃばば」


 調教はそのまま。

 町田は千鶴の太ももの中で捕らえられている。

 悲鳴は段々と弱々しいものになっていた。ギリギリと頭蓋骨がきしみ、太もものこすれる音が部室に響いている。

 そんな苛烈な調教の中で、千鶴はニコニコとご飯を食べていた。

 町田の弁当をおいしそうにパクついていく。可愛らしい女子高生。しかし、彼女は同級生の男子を調教しながら、昼飯を食べているのだ。

 千鶴のサディスティックな本性は、ここに開花しようとしていた。


「ふふっ、千鶴先輩にもこういう性癖があったんですね」

「ん? なにがかな?」

「とぼけなくってもいいですって。ねえ先輩。これからここに、野球部の男が3人来る予定なんですよ。一緒にヤりませんか」

「ヤるって、なにを?」

「決まってるでしょ?」


 彩華はじっと町田を見つめてやった。

 千鶴が得心言ったような顔で、


「ああ、わたしはいいや」


 と言った。


「わたし、町田くん虐めるので満足してるしさ。ほかの男の人に興味ないもん」

「そうですか?」

「うん。だから、彩ちゃんと優ちゃんで楽しんできてよ」


 そこで、はじめて優子が話しに割ってはいった。


「ちょっと千鶴先輩に彩華ちゃん。わたしは別に・・・・・・・」

「ああ、優子は練習してればいいじゃん」

「練習って?」

「ほら、キスとかさ。わたしの兄貴、惚れさせたいんでしょ?」


 かあああっと顔が真っ赤になる優子だった。

 興味津々とばかりに千鶴が尋ねる。


「え、なになに? 彩ちゃんのお兄さんって、確か、たまにうちの部にコーチできてくれる大学生の人だよね」

「そうですよ。優子ったら、兄貴のこと好きみたいで、狙ってるんですよ。こう見えて優子はアッチの技はすごいですからね。いつも顔に見合わないような猛アタックしてるんですけど、」

「ちょ、ちょっと彩華ちゃん!」


 そこで優子が彩華の口をふさいでそれ以上喋れないようにした。

 ふふふっと笑った彩華が言った。


「優子が一人担当してくれるとありがたいんだけどなー。もちろん、暴力とかふるわなくていいからさ。優子はいつも通り、優しく男子を墜としてくれればいいの」

「や、やだよ」

「えー、残念だなー。もしそうしてくれれば、兄貴とのデート、わたしが兄貴に頼んであげてもよかったんだけど」


 優子の目つきが変わった。

 彼女は諦めたように嘆息すると言った。


「わかったよ。やればいいんでしょ、やれば」


 たぶん、5分もかからないだろうし、と優子は無意識のうちにつぶやいていた。


「じゃあ、千鶴先輩。わたしたちは、ほかの場所でやりますから」

「あ、悪いね」

「いえいえ、じゃあ、また放課後」


 こうして彩華と優子は女子ソフト部の部室から去っていった。

 部室からはいつまでも町田の悲鳴と命乞いの声が響いていた。


 ●●●


 放課後。

 男子野球部の部室で、三人の男が気絶しているのが発見された。

 全員が裸。

 うち二人は全身が真っ赤になっていた。

 何度も殴られたのだろう。顔は腫れ、見る陰もない。

 胴体にはプレス機で潰されたようなアザが残っていて、内出血がひどかった。

 二人とも白目をむいて、口からはブクブク泡をだして気絶している。

 どんな暴力は震われたのか、発見した野球部員は恐怖におののくしかなかった。

 これとは対照的に、もう一人の男子は幸せそうに昇天していた。

 男の股間付近には白い液体が大量にこべりついていた。

 舌は口から飛び出て、だらしなく弛緩した表情は麻薬でもきめたみたいなアヘ顔。

 彼のモノはすべてを出し切り、小学生のもののように縮みあがっている。

 その三人の裸。

 その尻にはマジックペンで落書きがされていた。

 そこにはこう書かれていた。


 負 け 犬 の 末 路


 野球部員はそれを屈辱と恐怖と共に眺めるしかなかった。

 あの化け物じみた女子ソフト部員。

 彼女たちにケンカを売ったことこそ間違いだったのだ。


「なんだよこれ、俺たちが何したっていうんだ」


 野球部員たちは、、呆然とつぶやく。


「あんな強いやつらだって知ってたら、ゆ、油断なんかせずに最初から全力で戦ってたのによお」

「そ、そうだよな。なのに、あのバカが偵察もしないでいきなり勝負なんか受けてくるから」

「しかも、勝手に、グラウンドの使用権利までかけやがって・・・・」

「全部、町田のせいじゃねえか」


 部員たちは、逆恨みとは分かっていたが、女子ソフト部との勝負をもちかけてきた町田に対して恨みをいだくようになっていった。

 いや、それは恨みというよりは生け贄を欲する弱い人間の考えだった。

 自分たちのみじめさをまぎらわせるため、彼らは生け贄をもとめた。

 自分たちよりも下の人間をつくることによって、今のみじめな状況をなんとか改善しようとする情けない感情。

 町田は野球部から追われることになる。
つづく