夜の最後の仕事。

 それが町田に課せられたのは、初日の夜のことだった。

 増田家で泊まることになった初日の夜、町田がどこで眠るのかで問題になったのだ。

 町田は居候の身、自分はリビングのソファーを貸してもらえるだけでも御の字だと言ったのだが、千鶴は承知しなかった。

 彼女は散々悩んだあげく、ぽんと手を叩いてから言ったものだった。


「そうだ、わたしのベットで寝ればいいんだよ」


 最初、その千鶴の言葉に町田は反応できなかった。

 言われた意味がよくわからなかったのだ。

 よく言葉の意味を吟味した結果、彼は遅まきながら驚愕した。


「え!? なにを言ってるのさ、ち、千鶴さん」

「だから、わたしのベットで寝ればいいんだって。こんな簡単なこと、なんですぐ気づかなかったんだろう」

「いや、でも」

「いいからいいから、ね? ほら、いくよ弘貴くん♪」


 楽しそうに笑う千鶴に腕を引っ張られて、町田はベットに連行された。

 一人用のベットだ。

 千鶴の部屋にあるそこには、なぜか枕が二つあった。

 町田は、ここで千鶴が普段眠っているのかと思うと興奮を抑えられなかった。


「じゃあ、弘貴くん。わたしがいつも抱いてる枕を貸してあげるから、代わりに抱き枕になってね」


 ベットに早々に座った千鶴が言った。

 今度こそ、町田は彼女がなにを言っているのかさっぱりわからなかった。

 抱き枕?

 それを自分に貸してくれて?

 そのかわりに自分が抱き枕になる?

 さっぱり意味がわからない。


「あの、千鶴さん?」

「ん? なにかな?」



 千鶴はまったく自分の言葉に疑問を思っていないようだった。


「抱き枕って、どういうこと?」

「ええとね、わたし、普段は抱き枕がないと眠れないんだよね。だから、枕を二つ用意してあるんだけど、それだと弘貴くんの枕がないじゃない? だから、この枕を貸すかわりに、弘貴くんが私の抱き枕になってほしいの」

「抱き枕?」

「そう、ぎゅうううって抱きしめて眠らないと、わたし熟睡できないんだ」

「い、いやでも」

「あ、なあに。ひょっとして、子供っぽいと思ってる?」


 そうじゃない。

 そういうことではないのだ。

 町田は何度も自問した。

 抱き枕になる。

 それはつまり、

 一晩中、千鶴に抱きしめられるということなのか?


「もう、これは命令だよ」


 千鶴が煮えきらない町田に言った。


「言うこと聞かないと、ひどいことしちゃうからね」

「ひ、ひどいことって・・・・・」

「ひどいことはひどいことだよ。普段の調教が可愛く見えるくらいのひどいこと。普段、彩華ちゃんたちが男子ソフト部にしてるみたいな、すっごくひどいこと」


 にんやりと妖しく笑った千鶴の迫力はすごいものがあった。


「どうするの、弘貴くん?」


 *


 是非もなかった。

 町田は、千鶴のベットに素直に横たわった。

 千鶴のにおいが鼻孔をくすぐる。

 甘く、頭がとろけそうになる千鶴のにおいだ。

 彼はふかふかと布団と千鶴のにおいにつつまれて、はやくも夢心地になっていた。


「じゃあ、ちょっと待っててね。すぐ着替えちゃうからさ」


 言うなり、千鶴はベットから降りて着替え始める。

 町田は慌てて横向きになって、ベットに横たわったまま身じろぎ一つたてなかった。

 鼻歌にまじって、衣擦れの音が背後から聞こえてくる。

 今、この瞬間、千鶴が寝間着に着替えているのだ。

 あの大きな胸を外気にさらして、彼女が着替えている。

 そのことを意識するたびに、町田は自分の股間がいきりたつのを抑えられなかった。


「おまたせ」


 ベットが軋んだ。

 千鶴がベットの上に乗ってきたのだ。

 彼女の体温がすぐそばに感じられる。

 近くでじっと見つめられている。

 そのことを意識した途端、とてつもなく柔らかいものが自分の背中で潰れるのを町田は感じた。


「あ、弘樹くんの体、あったか〜い」


 背中の感触に町田の神経のすべてがジャックされた。

 その大きな胸。

 いつもいつも凝視し、そこに顔面を潰され、窒息させられるところの柔らかい二つの双丘。

 それが自分の背中で、ぐんにゃりと潰れている。

 柔らかく、暖かかった。

 その感触に、腰が溶けてしまったかのような快感を感じた。

 大きな胸。

 しかし、それだけではない。

 町田は背中の感触に集中した。

 この背中で擦れる二つの突起。

 これは、まさか・・・・・・


「ち、千鶴さん。ぶ、ブラつけてないの?」

「え? うん、そうだけど?」


 耳元で千鶴の声がして、それだけで町田の体から力が抜けてしまう。

 大好きな女の子が、自分に背後から抱きつきながら、その耳元で囁くようにして言った。


「わたし、普段は裸で寝てるんだよね。そっちのほうが楽でいいからさ。でも、さすがに弘貴くんと寝るのに全裸はまずいかなと思ってさ、学校の体操服と下の下着はつけてるから、安心してね♪」


 なにを安心すればいいのか町田にはさっぱりわからなかった。

 つまり、千鶴はノーブラで体操服を着ていて、この二つの突起はつまりはそういうことで、耳元で囁かれる千鶴の吐息で頭はくらくらしてしまって・・・・・・


「もうちょっとくっついちゃおうかな」


 千鶴がさらに町田に抱きついた。

 彼女の腕が町田の体の前でがっちりと組まれる。

 ぎゅうううっとばかりに町田の体に密着し、その巨乳を惜しげもなく押しつけた。

 さらには、その艶めかしくも長い脚が、町田の下半身を挟み込んでしまう。

 町田の下半身にからみついた千鶴の脚もまたがっしりと組まれて、町田は身動き一つとれなくなってしまった。


「わ、わ、わ・・・・・」


 町田は慌てて、なにがなんだか分からずにとりあえず逃げようとする。

 しかし、がっちりと千鶴の腕と脚が体にからみついていて、とてもじゃないが逃げることなんてできなかった。

 背後から大好きな女の子に抱きしめられて、身動きがとれなくなっている。

 まるで千鶴の豊満な体に全身で消化されてしまっているかのような密着具合だった。

 千鶴の柔らかさのすべてが直接自分に伝わってくる。

 その甘美な感触と、脳味噌をとろけさせてしまう甘いにおい、そして、耳元の千鶴の吐息・・・・・・・

 野球ばかりやってきた町田にとって、その快感にあらがうすべはなかった。

 すぐに、町田の全身から力が抜け、千鶴に抱きしめられるがままになった。


「うん、いい感じ♪ 弘貴くんの体、抱き心地がいいよ」

「あ、うん」


 千鶴から送られてくる快感に頭は真っ白で、町田は間の抜けた返答しかできなかった。


「それじゃ、電気消すね。おやすみなさい」


 千鶴が手元にあるスイッチをきって、部屋は真っ暗になる。

 視覚がなくなって、代わりに触覚の感覚が強くなった。

 その柔らかさは信じられないほどだった。

 背中には千鶴の爆乳。

 下半身には艶めかしい生脚が、ぎゅうっとからみついている。

 千鶴のにおいと吐息に、さきほどから頭は麻痺したようにしびれたままだ。

 まるで、天国にいるかのような心地だった。

 その快感に酔いしれるままでいるうちに、いつの間にか背後の千鶴が「すーすー」と寝息をたて始めた。

 その寝息が耳元でするのだ。

 さきほどから痛いほどに直立している自分の逸物はさらに固さを増してしまう。


「ん、んん」


 千鶴が少しだけ身じろぎした。

 その爆乳もまた動き、二つの突起が町田の背中で擦れた。

 その感触は下半身に直結し、電流のような快感で尻の下のほうの感覚がなくなったようになった。

 思わず、快感の声が自分の口からでてきそうになるほどだ。



(きもちい・・・すごい、千鶴さんの体・・・・・すごい)



 町田はぼうっとした頭で、千鶴の体を甘受するしかなくなっていた。

 天国。

 普段の調教とは違う理想郷がここにはあるのだ・・・・・・・

 そう思っていた町田は、次の瞬間、地獄にたたき落とされた。


 ぎゅううううううううううッッ!!


「!!!!????」


 いきなり、千鶴の腕と脚に力がこもった。

 自分の体からミシミシと音が出るほどに、千鶴の抱きしめの力が増した。

 潰されているのだ。

 いつものように、千鶴の怪力で自分は潰されている。

 息ができなくなるほどの熱烈な抱擁だった。


「ち、千鶴さん? いったい、なにを」

「すーすーすー」

「ね、寝てるのか?」


 千鶴は寝息をたてたままだった。

 それなのに、抱擁の力は少しづつ力を増していくようだった。

 さきほどまで快楽を感じていた爆乳は自分の体を潰すためのハンマーに変わった。

 自分の下半身を挟み込んでいる千鶴の生足は自分のことを潰すプレス機になった。

 もはや快感は感じなかった。

 痛み、痛み、痛み。

 いつもの調教。

 町田は暗闇の中、千鶴に抱きしめながらも、どうにかして声を我慢しようと必死だった。


「く、くそ」


 けれど、どうにもならなかった。

 まるで内蔵が飛び出てしまうかのような力がこめられた瞬間、町田は、漏らすようにして、


「ひゃ、あああ」


 悲鳴をあげてしまう。

 すると、どういうわけか、千鶴の腕と脚にこめられていた力がなくなった。

 自分のことを潰そうとしていた千鶴の抱擁が、ただの抱き枕を抱く可愛らしい女の子のものになった。


「はあ、はあ、はあ。ち、千鶴さん? ひょっとして起きてるの?」


 問いかけに千鶴は答えない。

 さきほどから寝息は継続したまま。どうやら、本当に眠っているらしい。

 千鶴の吐息とノーブラの胸と艶めかしい生脚の感覚。

 それが少しづつ強まっていき、町田にまたしても快感を送り込んでくる。

 しかし、


 ぎゅうううううううううッッ!!


「ま、また!?」


 プレス機が再稼働した。

 千鶴の体が全身をもって、町田のことをつぶしにかかった。

 千鶴の寝息は相変わらずだ。

 彼女は、眠ったまま町田のことを調教しているのだった。

 おそらく、夢の中ですら、町田をちょうきょうしている夢を見るのだろう。

 その証拠に、少しでも町田が我慢できず、悲鳴をもらすと、すぐに千鶴の抱きしめは力を失った。

 けれども、少しすると、すぐさま町田の体を軋ませる。

 普通の抱擁のときには信じられないほどの快楽を町田に与え、

 潰しにかかるときには、町田に息もできないほどの苦痛を与える。

 天国と地獄。

 その二つに町田は苛まれることになった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・

 ・・


 けっきょく、その調教は朝まで続いた。

 何度も何度も、抱きしめられ、潰され、抱きしめられ、潰された。

 快感、苦痛。

 快感、苦痛。

 そんな拷問に耐えた町田は、しかし眠ることなんてできるわけがなかった。

 一睡もできなかった町田は、カーテンの隙間から漏れてくる朝日を絶望的な気持ちでむかえた。

 これがこれからずっと続くのだ。

 千鶴に一日中調教される。

 眠る間も与えられず、ずっと、ずっと。

 この背後から抱きしめて離してくれない女の子に、ずっと・・・・・・


「んん、弘貴くん・・・・・」


 千鶴の寝言。

 彼女は幸せそうに笑って言った。


「もっと・・・・んんふ・・・いい声で鳴きなさい・・・・・・」


 その言葉によって絶望が薄れるのを町田は感じた。

 なぜそう感じたのか分からない。

 けれど、幸せそうに寝言を言って、おそらく夢の中ですら自分のことを虐めている女の子を見て、なんだか満ち足りた気持ちを感じているのだった。

 なぜ、そんな満ち足りた思いなんて感じるんだろう。

 町田は自分に生まれつつある性癖に気づくことができなかった。


「よし、じゃあ、朝ご飯をつくろうかな」


 元気を出して町田が言った。

 一生懸命、千鶴のために奉仕しよう。

 そう、町田は決めたのだった。

 町田は起きあがって台所に行こうとする。

 そこで、はたと気づいた。


「どうやったら、千鶴さんは離してくれるんだろう?」


 幸せそうに自分に抱きついてくる千鶴の姿。

 彼はそんな彼女を見つめながら、途方に暮れたように笑った。

つづく