「ねえ、お父さん。今日の夜は外食にしない?」


 学校から帰ってきた娘が言った。

 めずらしく、奴隷の男子生徒を連れていない。


「いきなり、どうしたんだい」

「えへへ。いつも調教ばっかりやってても疲れるからさ、たまには気分転換もいいかなと思って。あいつだったら、学校の寮に置いてきたから気にしなくていいんだよ」

「しかしなあ」

「ね、お願い。わたし、お父さんと一緒に外でご飯食べたいな」


 手をあわせて、可愛らしくお願いしてくる娘。

 こんな目にいれても痛くない娘が、日ごろ、あれほど苛烈な調教をしているとは想像しづらいものがった。

 この、しなやかな手で、

 この、長い脚で、

 娘は、男子生徒のことを調教しているのだ。

 目の前の娘を見ていると、ついそのことを忘れそうになる。

 しかし、彼女は父親であるわたしよりも100倍は強い。

 彼女がその気なら、あっという間にわたしのことをボコボコにしてしまえるだろう。

 そんな娘が、わたしにお願いをしてくる。

 そのことがとてつもなく嬉しくて、わたしは破顔してしまうのを我慢できないままに、娘の申し出を受けてしまったのだった。


 ●●●


 食事は、少し遠出をして豪華なレストランでとった、

 女性限定の高級フレンチレストランである。

 普通ならば、男性はそこで食事をとることはできない。

 しかし、例外的に、女性の附き添いがあれば、男性も食事をとることができた。

 ここでいう女性は、娘である。

 わたしは、娘がいなければ入ることもできないレストランで食事をしたのだ。

 妻と何度か来たことのあるレストラン、その味はまったくかわっていなかった。


「おいしかったねー」


 食事を終え、レストランから出た娘が言った。

 娘は、華やかなドレスをきていた。

 妻ゆずりの高身長とスタイルのよさもあいまって、そのドレスは娘にとてもよく似合っていた。

 胸元が大胆にあいており、娘の発育のよい谷間が見て取れる。

 わたしは、食事中、なんとかして娘の体を凝視しないように、多大な努力をはらったものだった。


「しかし、本当によかったのか?」

「なにが、お父さん?」

「支払だよ。けっこう高かったんじゃないか?」


 食事は娘が支払った。

 娘は、食事を終えると気品よくウエイターを呼んで、カードで支払いをすませてしまったのだ。


「ぜんぜん大丈夫だよ」


 と、娘は満面の笑みで言った。


「お母さんからお小遣いはもらってるしね。委員会活動でわたしけっこう活躍してるから、お給料もいいんだよ」

「しかしだなあ」

「大丈夫だって。それに、お父さんはあくまでも男なんだからさ。ああいう公共の場でお父さんに支払まかせちゃったら、こっちが恥かいちゃうじゃない」


 ね、と娘がわたしに微笑みかける。

 そこには、なんの悪気もないことは明らかだった。

 それは、女性がその能力に目覚める前まででは考えられない言葉だった。

 優秀な女性である娘と、劣等種な男である父親。

 その対比をまざまざと突きつけられるようで、わたしは内心忸怩たる思いだった。

 なんとしても計画を成功させなければならない。

 わたしは、何度目になるか分からない決意を固めた。


「あ、しまったー」


 突然、娘が立ち止った。

 駐車場の中、娘が車のカギをあけようとしているときだった。


「どうしたんだ?」

「うん、さっきのレストランに忘れ物しちゃったみたい」

「忘れ物?」

「そう。お財布を置いてきちゃったみたいなの」


 それでも、娘は慌てた様子も見せなかった。


「ちょっと取ってくるから、お父さんはここで待っててくれる?」

「いや、そんなことはわたしが、」

「いいからいいから。それに、あそこは女性限定レストランなんだから、お父さんが一人で行っても中にいれてもらえないと思うよ」


 その通りだった。

 わたしは屈辱を感じながら押し黙った。


「それじゃあ、ちょっと待っててね、お父さん」


 言うなり、娘はレストランのほうへと歩いて行った。

 わたしはそれを、黙って見送ることしかできなかった。


 ●●●


 男たちが襲いかかってきたのは、それからすぐのことだった。

 一人だけ車の中で待っているのも悪い気がして、わたしは車に入ることなく外で娘を待つことにした。

 いきなりだった。

 暗闇の中、背後から口元をおさえられ、羽交い絞めにされた。

 娘がふざけているのかなと一瞬思ったのだが、その予想はすぐさま打ち消された。


「静かにしろ。さわいだら殺す」


 首元に、あやしく光るナイフがあてがわれた。

 背後からわたしを拘束する男とは別に、正面にまわりこんだ男が口を開いた。


「金をだせ。お前みたいなヒモは、たんまりお小遣いをもらっているんだろ?」


 わたしは恐怖を感じた。

 首元にあてがわれたナイフが、次の瞬間、勢いよく引かれるかもしれないのだ。

 そう思うと、わたしは腰がぬけてしまった。

 恐怖で、脚がガタガタと震えた。


「けっ、女にかしづくしか能のない人間が、なんだって、そんないい暮らしができてるんだよ」


 背後からわたしのことを羽交い絞めにしている男が言った。


「俺らはこんなに苦労してるっていうのによお。お前は女に養ってもらって悠々自適の生活なんだもんな。不公平だろうが!!」


 男の口からツバが飛ぶ。

 真正面に立つ男よりも、背後の男のほうが危険だ。

 わたしはそう思った。

 金目的ではない。

 ただ、わたしのような配偶者にめぐまれた男を憎悪している。

 やめてくれ、かぼそい声が、わたしの口から漏れ出た。


「ふざけやがって、ふざけやがって」


 背後の男がツバを飛ばしながら連呼する。

 ナイフを握る手に力がこもった。


「おい、やめろ!」


 前に立つ男が言うのもつかの間、後ろの男が奇声をあげた。


「しねええええええええ!!」


 わたしは目をつぶった。

 喉の奥がヒュウっと冷たくなった。

 吐き気がした。

 ハアハアと荒い息づかいを誰かがしていた。

 気付いた。

 生きている。

 なにが起きたのか分からず、わたしはきょろきょろと周囲を見渡した。

 いつの間にか、背後の男が消えていた。

 前に立っていた男もいない。

 どういうことだ?

 疑問に思っているわたしの頭上から悲鳴が聞こえた。


「た、たすけてくれえ」

「し、死にたくねえよおおお」


 頭上を見上げると、高いところで男が二人宙釣りにされていた。

 なにもない空間に、大の男の体が浮かんでいる。

 彼らは何もできず、手足をバタバタと動かすだけだった。

 それがとても滑稽に感じられた。


「お父さん、大丈夫!?」


 娘が言った。

 急いで駆け付けてきたのか、めずらしく息があがっている。

 ドレスの胸元がはだけてしまっていて、場違いであることが分かっていても、目が釘付けになってしまった。


「こ、これ、おまえがやっているのか?」


 わたしは、茫然としながら、頭上を指差して言った。


「うん、そうだよ。女の子の能力。観測してるの」

「そ、そうか」

「店から出たら。駐車場が騒がしかったから急いできたんだよね。とにかく、間に合ってよかったよ」


 そこで娘は、にっこりと笑ってみせた。

 漆黒の黒髪が月明かりでも艶を失っておらず、とても美しかった。

 しかし、彼女の表情は次の瞬間、一変した。


「さて、と」


 獲物を狙う女豹の視線が、宙づりになっている男二人に向けられた。

 それは、同じ人間を見つめる視線ではなかった。

 役立たず、ゴミ、汚濁物。

 その類のものを見るときの視線だ。

 わたしは娘を間近で見ているだけで、背筋が凍る思いだった。


「この二人には、たっぷりお仕置きしないとね」

「お仕置き?」

「そうだよ。ひと思いに「処分」してあげてもいいんだけど、初犯みたいだしさ」

「処分って……おまえ、それは懲罰委員にしか許されていない権限だろう」

「ん? ああ、そうだったね」


 娘は、そんなことよりという前置きのあとで言った。


「お父さん、ちょっと離れててくれるかな。いろいろと、ショックが強すぎると思うから」

「ショック?」

「そう。遊びの調教じゃなくて、本物のお仕置き。女の能力をつかったお仕置きだね」


 娘は、なぜかわたしの瞳をじっと見つめると、


「男が女にさからったらどうなるか、お父さんは離れたところで見ててね」


 ●●●



 お仕置きというより虐殺だった。

 すでに男たちの口から歯はすべて抜き取られていた。

 指の骨も折れていないところはない。

 地面や壁に擦りつけられ、全身を真っ赤にした彼らはボロ雑巾のようだった。


「ほら、ちゃんと反省してる? まだまだ続くからね」


 娘が言って、次のお仕置きにうつる。

 男たちの体が急上昇すると、すぐに地面にむかって急降下した。

 地面ぎりぎり。

 鼻の先が地面にふれるところで急停止し、すぐさま急上昇を開始する。

 それが何回も繰り返された。

 ときどき、軽く地面に激突させられ、もう何度目にか分からない絶叫で喉をからす。

 年端もいかない少女に、手も足もでずにボロ雑巾のように扱われていく。

 しかも、娘は指一本動かしていなかった。

 女性の能力がそれを可能にしていた。


「す、すごい」


 わたしは思わずつぶやいていた。

 彼女が観測しただけで、そのとおりの事実が現実化する。

 娘は、携帯電話を操作してどこかと連絡をとりながらお仕置きを続けていた。

 娘にとって、これは片手間ていどのことでしかないのだ。

 男の指の骨をゆっくりと折り、じっくりと首を絞め、何百回もの殴打を繰り返す。

 娘はそれを片手間でやってのけていた。

 これは驚くべきことだった。

 女性の能力には極度の集中力を必要とする。

 娘の能力は、ほかの女性よりも上に感じられた。

 まるで妻のようだ。

 懲罰委員として男を恐怖のどん底におとしいれた妻のように、娘はその能力に精通しているらしかった。


「で、反省したのかしら?」


 娘が聞いた。

 男二人は、娘の眼前で宙釣りにされていた。

 腕が変なふうに曲がり、顔は3倍くらい腫れあがっている。

 それでもまだ息があるのだから驚くべきことだ。

 生かさず殺さず。

 制御の難しいの能力を、これほどうまく操るとは……

 娘はいったい、どこで経験をつんでいるのだろうか。


「ゆるじで……じゅびまぜんでし、だ……ごめ、もうしばげ…………」

「たすげで、……ぼうじばぜん……おねがい、じばず……」


 男たちは必至で謝罪と命乞いを続けた。

 生殺与奪の権利はまだ娘が握っている。

 彼女は男たちを宙吊りにして、じっと男たちを見つめていた。

 汚物を見る目でもって、じっと男たちを観察している。

 ときおり、男の体に圧力をかけ、潰しにかかる。

 悲鳴が大きくなり、命乞いの声もたかくなる。

 それを交互にくりかえしていった。

 まだ反抗心がないかどうかを、娘はじっと観察していった。


「よし」


 犬にむけた命令のようにつぶやくと娘は男たちの拘束をといた。

 どさっと地面に倒れこむ二人。

 娘は仁王立ちのまま、男どもを見下ろして言った。


「土下座」


 底冷えのする声色だった。

 男たちはひいひい言いながら頭を地面にこすりつけた。

 見ているこっちが情けなくなるような土下座だった。

 娘は、二人をじっと見下ろすと、片足を大きく振り上げて、男の後頭部を踏んだ。

 ベッギイイ!!

 いやな音がした。


「次はないわよ」


 言って、ようやく娘は男たちを解放した。

 携帯電話を操作して、病院の手配をしている。

 すぐに、わたしのそばまで娘がきた。


「お父さん、おまたせ!」


 天真爛漫。

 いつもの優しい娘がそこにはいた。

 しかし、彼女は懲罰委員もかくやという能力を身につけている。

 指一本動かすことなく、男どもを抹殺する能力をもっている。

 それがとてつもなく恐ろしかった。

 彼女がその気になれば、わたしなんて一瞬で殺されてしまうだろう。

 まったく労力なんてかからない。

 彼女がちょっと、わたしの首を折るという事実を観測してしまえば、それが現実になる。

 にこにこ楽しそうに笑う娘。

 優しい優しい、自慢の娘。

 わたしは彼女に恐怖を感じていた。

 もし仮に、組織の計画が娘にしれたら・・・・・・

 いや、能力にめざめた女性に知られることになったら・・・・・・

 その時点でわたしの人生は終わる。

 土下座している二人の男。

 わたしは、自分の未来を見せつけられるようで、暗澹たる思いを感じた。 動画 アダルト動画 ライブチャット