「あら、男だけ?」


 数分後、夕焼けに染まる浜辺で、私は声をかけられた。

 女性だ。

 絶世の美女だった。

 若干、茶色がかった髪はカールをまいている。長身。男の魂を抜きさってしまうような、大きな胸、長い脚、そして大きな尻。

 ゴージャスでアマゾネスな、セックスマシーンのような女性だった。


「なんで、男だけがここにいるのよ。女性専用のビーチよ、ここ」


 女性は不機嫌さを隠そうともせずにそう言った。

 どこかその声は子供っぽかった。こんなすごいスタイルをしていながら、彼女はまだ成人していないのかもしれない。


「ちょっと、聞いてるの?」


 私は我にかえって、直立不動で立ち上がった。


「は、はい。その、娘と一緒に来たんですが、娘は飲み物を買いに行ってしまって」

「買いに行ったって・・・・・なによ、買いに行かせたの?」

「い、いえ。そんなことは決して」


 女性は私のことをじっと見つめた。

 同族を見る目ではなかった。

 底冷えするような冷たい・・・・いや、無関心な視線。たとえば、道路の標識を見るときのような、なんの暖かみもない瞳。

 私は全身の毛穴が開くのを感じながら、女性の反応を待つしかなかった。


「ふーん、まあいいわ」


 女性が嫌な沈黙を破って言った。


「奇特な人もいるのね。男の代わりに飲み物を買いに行くなんて、不思議な人」


 彼女は、長い髪を魅力的にかきあげた。

 そして、ふう、とため息をつくと、


「ちょっと泳ぎ疲れたわね。最近、能力ばかり使っていたから体がなまってしまったのかしら」


 言うと、彼女は自分の体をチェックし始めた。

 見事なプロポーションである。

 瑞々しい肌は健康的なまでにハリがあり、海水をはじいている。

 大きな胸は少しも垂れておらず、その形の良さには性欲よりも美しさを感じた。

 長い脚は躍動感に満ちていて、うっすらと筋ばった筋肉の存在が彼女のもっているポテンシャルをしらしめている。

 成人男性を上回る肉体。

 おそらく、私は彼女に喧嘩で勝てないだろう。

 ボコボコにされて、半殺しにされてしまうだろう。

 それほど高性能な肉体をもってして、彼女は「最近なまっている」と言った。

 次元が違う。

 男と女ではすんでいる世界が違う。

 そんな当たり前のことを、私は再認識していた。


「そうだ、いいこと思いついたわ」


 彼女は、自分の肉体のチェックを終えると、高圧的に言った。


「ねえ貴方。椅子になりなさい」

「は?」

「椅子よ。四つん這いになりなさい」


 私は自分の耳を疑った。

 椅子?

 椅子といったのか?


「聞こえなかったの? 椅子になりなさいって言ったの。直に座ったら砂がついちゃうじゃない。それくらいも分からないの?」


 さも当然そうに、それが正当な権利のように、彼女は言った。

 私が彼女の申し入れを断ることをまったく想定していない。

 そんな彼女の態度に、私は反発心を感じた。


「いや、その・・・・私は、妻帯者でして」

「だから?」

「え、いや、だからその」

「特別扱いする気はないわよ?」


 私は、ごくっと唾と共に恐怖を飲み込んだ。

 男性蔑視。

 男性差別。

 私たちの組織は、それを打破するべく結成された組織だ。

 明後日、いよいよ決起しようとしている今、私には彼女の態度が我慢できなかった。

 私は、意を決して言った。


「そ、そんな義務なんか私にはない」

「・・・・・・・・・」

「椅子になんか、なりたくありません」

「・・・・・・・・・」


 女性は、私に対してそれまでとは一線を画した視線を向けた。

 背筋が凍る。

 今すぐ、彼女の足下にひれふし、土下座をしたい思いにかられる。

 しかし、私の遅すぎる懺悔の気持ちなんて、彼女にはどうでもよかったのだ。


「・・・・・・・・・・・・」


 彼女は、無言でソレをつかった。

 能力。

 観測することによって、現実を変革する恐るべき力。

 最初に感じたのは地面の喪失だった。

 空と地面が逆転する。猛烈な視界の変化。目の前が真っ暗になる。肌が何かで焼かれていた。

 気づいたときには、私は地面と熱い抱擁をかわしていた。

 うつぶせの格好。

 大の字をつくるように、私は浜辺に転がり、そして潰されていた。

 何百枚という布団を上からかぶせられたみたいな、すさまじい圧力。

 ミシミシと、体が潰されていく音がする。

 私の顔面は砂浜に突っ込まれている。

 私はパニックに陥り、思わず勢いよく息を吸ったら、砂が体内に浸食してきた。

 さらなるパニックに、私はもだえるしかなかった。


「その年になって、まだ反抗心が残っているとは驚きね」


 頭上からさきほどの女性の声がした。


「いいわ、女の義務だもの。特別に、あなたのことを調教してあげる」


 彼女は、けだるげに、さも面倒くさそうに言った。


「まったく、久しぶりの休みだっていうのに。なんでこんな無能な男の面倒をみないといけないのかしら」


 ガッシイイイイ!!


「ふんあああ!!」


 勢いよく、女性が私の後頭部を踏みつけた。

 ぐりぐりと、私の顔面が砂浜の中に埋もれていく。

 後頭部には足裏の感触。あの長い脚で、彼女は私の頭を情け容赦なく踏みつぶしているのだ。


「どうやって調教してほしい? せっかく海があるんだから、永遠に水責めしてあげようかしら。もう水なんて見たくないって思うぐらいに、何度も何度も、溺死する一歩手前まで沈めてあげるわよ。それとも、私の太ももで沈みたい? 貴方の顔面を挟み込んで、何度も何度も気絶させてあげる。それとも、私の胸で溺れてみる? 窒息寸前までぎゅううって貴方の顔面を私の胸に押しつけるの。ひょっとしたら潰しちゃうかもしれないけれど、まあ別にいいわよね」


 ぐりぐりと、彼女は私の後頭部を踏みつぶしながら調教の計画を練る。

 彼女たちは本気だ。

 女性は本気なのだ。

 決して冗談ではない。

 彼女たちは本気で水責めするだろうし、脚や胸で男の心を完全にへし折る。

 そのためならばどんな手段でも使う。

 私は、彼女にめちゃくちゃにされてしまうだろう。

 怖かった。

 許してほしかった。

 反抗心なんてもってしまったことに、私は心の底から後悔した。

 誰か・・・・・

 誰か、助けて・・・・・

 お願い、助けてください!!


「ちょ、ちょっとお父さん、なにやってるの!!」


 娘の声がした。
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